池の桜

ホーム知る ≫ 伝説

伝説

伝説について紹介させて頂いているページです。横スクロールでお読み頂けます。また、文字のサイズを変更する事ができますので、「フォントサイズ」で読みやすい大きさを選択してお読み下さいね。

フォントサイズ: / /

住持池 小野ノ小町の伝説

- 深草少将とのまつわり

- 室家の桂姫とのまつわり


深草少将とのまつわり

 京都深草に住む男は毎日その尼寺を尋ねてきた。尼寺にいた小野小町は世にまれな美人であったが、まだその男を見た事がない。「そんなに毎日きても駄目ですよ、世界には、まだまだたくさんの女はあるではないの。」と断るのは常であった。それでも深草少将はよく尋ねてきた。ある日のこと、小野小町は、「百夜このお寺にお詣したなら、私はあなたの望みを聞いてあげましょう」。と言った。それは、いかに自分を好んでいる少将でも百日は通えないだろう。そして諦めてしまうだろうと思ったからだった。しかし、少将は根気よく九十九夜まで詣った。
 翌日少将は満面に笑みをたたえて胸をおどらせながら小町の家へきた。入口にたった彼はひどく失望と忿怒(ふんど)の色をあらわした。それもそのはず、戸はびったりと閉じていたからである。「よくもだましたー小町め!逃がすものか」。一方小野小町は到底できないと思った百夜詣りも、後一日となったので、夜もすがら考え抜いたあげく、ここを逃げ出そうと決し、侍女をつれて家を出たのだった。
 野を超え、山を越え、境谷を経て小野山の方へ逃げようとしたが、深草少将は後を追ってくる恐れがあるので、境谷峠から横に折れて山崎組安上へと下った。
 横道へそれた二人は安心しきって疲れた足を静かに運び行くのだった。ふと振り返ってみると今来た道を駆け下りてくる一人の男があった。それは別れ道にある茶屋の婆さんから聞いて追っかけてきた少将だとわかった。小野小町はなす術もなく、恐きふるえるばかりだった。急いで奥安上に来たころ、侍女は「もうすぐ追いつかれます。このままではとても駄目です。私はあなたの身代わりになりますからどうぞお服をおかえください」と言って遠上薮に入り手早く服装を替えた。侍女となった小町は、なおも道を急いで行った。小町の衣を羽織った侍女は、とぼとぼと出掛けた。間もなく少将は追いついた、「どうして逃がすものか小町、私を裏切ってどこまで逃げて行くのか。」衿を掴んだ時、彼女はいとも平静に答えた。「私はあの住持池とやらに飛び込んで死ぬつもりです。」「えっ!死!」「おれも武士だ、何をくよくよ考えよう、では一緒に死ぬぞよ」と、今一度小町の顔を見たとき「おお侍女ではないか最後までおれをだまそうとするのか、ああ、憎い小野小町め、おれは一人でこの池に入る。だがこの魂はどこまでもついて行くぞ」と侍女を蹴って狂気のごとく躍り込んだ。大池の中に躍り狂う男は見る見るうちに大蛇にかわり行くのであった。
 忠実な侍女の身代わりによって逃れ去った小町は坂本、安土、相谷と逍遥(しょうよう)しているうち、至る所で深草少将の亡霊に苦しめられた。小町はもはやこの上は少将の霊を祀るより仕方はないと安上のある小寺に籠って仏に仕え、一心に祈っていた。しかしながら依然として亡霊は彼女から離れなかった。
 「私はもう駄目よ、もしも私に子供ができたらきっとその子をあなたに差し上げます。」これを最後の言葉として小町はとうとう発狂して帰らぬ旅路に急がれた。村人の同情によって寺の側に小さい石碑が建てられたが、それはいつごろか不明である。子のない人々は、小町の墓に祈願すれば必ず子供を授けてくださるとの噂がでた。

もくじに戻る


室家の桂姫とのまつわり

 京都深草に住む男は毎日その尼寺を尋ねてきた。尼寺にいた小野小町は世にまれな美人であったが、まだその男を見た事がない。「そんなに毎日きても駄目ですよ、世界には、まだまだたくさんの女はあるではないの。」と断るのは常であった。それでも深草少将はよく尋ねてきた。ある日のこと、小野小町は、「百夜このお寺にお詣したなら、私はあなたの望みを聞いてあげましょう」。と言った。それは、いかに自分を好んでいる少将でも百日は通えないだろう。そして諦めてしまうだろうと思ったからだった。しかし、少将は根気よく九十九夜まで詣った。
 翌日少将は満面に笑みをたたえて胸をおどらせながら小町の家へきた。入口にたった彼はひどく失望と忿怒(ふんど)の色をあらわした。それもそのはず、戸はびったりと閉じていたからである。「よくもだましたー小町め!逃がすものか」。一方小野小町は到底できないと思った百夜詣りも、後一日となったので、夜もすがら考え抜いたあげく、ここを逃げ出そうと決し、侍女をつれて家を出たのだった。
 野を超え、山を越え、境谷を経て小野山の方へ逃げようとしたが、深草少将は後を追ってくる恐れがあるので、境谷峠から横に折れて山崎組安上へと下った。
 横道へそれた二人は安心しきって疲れた足を静かに運び行くのだった。ふと振り返ってみると今来た道を駆け下りてくる一人の男があった。それは別れ道にある茶屋の婆さんから聞いて追っかけてきた少将だとわかった。小野小町はなす術もなく、恐きふるえるばかりだった。急いで奥安上に来たころ、侍女は「もうすぐ追いつかれます。このままではとても駄目です。私はあなたの身代わりになりますからどうぞお服をおかえください」と言って遠上薮に入り手早く服装を替えた。侍女となった小町は、なおも道を急いで行った。小町の衣を羽織った侍女は、とぼとぼと出掛けた。間もなく少将は追いついた、「どうして逃がすものか小町、私を裏切ってどこまで逃げて行くのか。」衿を掴んだ時、彼女はいとも平静に答えた。「私はあの住持池とやらに飛び込んで死ぬつもりです。」「えっ!死!」「おれも武士だ、何をくよくよ考えよう、では一緒に死ぬぞよ」と、今一度小町の顔を見たとき「おお侍女ではないか最後までおれをだまそうとするのか、ああ、憎い小野小町め、おれは一人でこの池に入る。だがこの魂はどこまでもついて行くぞ」と侍女を蹴って狂気のごとく躍り込んだ。大池の中に躍り狂う男は見る見るうちに大蛇にかわり行くのであった。
 忠実な侍女の身代わりによって逃れ去った小町は坂本、安土、相谷と逍遥(しょうよう)しているうち、至る所で深草少将の亡霊に苦しめられた。小町はもはやこの上は少将の霊を祀るより仕方はないと安上のある小寺に籠って仏に仕え、一心に祈っていた。しかしながら依然として亡霊は彼女から離れなかった。
 「私はもう駄目よ、もしも私に子供ができたらきっとその子をあなたに差し上げます。」これを最後の言葉として小町はとうとう発狂して帰らぬ旅路に急がれた。村人の同情によって寺の側に小さい石碑が建てられたが、それはいつごろか不明である。子のない人々は、小町の墓に祈願すれば必ず子供を授けてくださるとの噂がでた。

◯室家の桂姫とのまつわり

 唐和のころ、根来山の麓、西坂本に室家右兵衛忠家という豪家があった。彼は豪華な生活をし、裕福に暮らすことのできる身でありながら、ただ、子供のないために淋しく過ごしていた。ある日小野小町の墓に詣れば子供ができるということを聞いた。忠家の妻は、二十一日絶食して彼女の墓に祈願をこめた。やがて忠家の妻は妊娠した。忠家夫婦の喜びは言うまでもない。幾日かが過ぎてそこに産み落としたのは桂姫。桂姫は不思議にも小野小町そっくりな非常な美人だった。だんだん成長していく桂姫は、住持池の水をつけなければ髪はすけなかった。それでいつも住持池の水を汲んできてはすいていた。
 桂姫が年頃になったころ、どこから忍び入るのか毎夜夜丑満時に彼女の枕元へ美男が現れ、そしてどこへ行くともなく消えていくのだった。
 ちょうどそのころ、和泉国尾崎の大原源蔵高広という北面の武士に嫁ぐ約束がなった。いよいよ嫁ぎいく日がきた。空はがらりと晴れて雀まで嬉しそうにさえずっていた。めでためでたで宝家をでた。箪笥・長持・挟箱・豪華な嫁入行列を付近の人々は珍しそうに見物していた。やがて行列は住持池の場にさしかかった。折しも一天にわかにかき曇って池には大波が立った。ところが驚くなかれ、岸に押し寄せる波にはあの不思議な大蛇が乗っていた。人々はあれよあれよというまに大蛇は桂姫をさらって再び池の中にはいってしまった。人々はただ夢見るように池水を眺めていた。母の悲しみ、堤に立って泣き明かす母の姿、それは見ても哀れであった。同情ある村人とともに近くの遠上薮に灯をたいて三日三晩祈祷した。
 四日目の朝もまた母は立って桂姫を慕っていた「蛇に召された娘ならもうあきらめて差し上げます。どうか一度娘の顔を見せてくださいませ。」静かな水際でただ母のすすり泣く声のみ哀れに響いていた。やがて鏡のような水面が小波を立て始めた。だんだん大きくなってそこに現れたのは大蛇と桂姫の半身「おお桂姫」母は我身を投げて娘に抱きつこうとした。人々の走りよった時には、もはや桂姫の姿でなく二匹の大蛇が仲良く遊泳していた。深草少将の望みも、幾十年かを経て、ついにかなったのである。

もくじに戻る